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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)1974号 判決

大阪府和泉市太町四七-一一

原告

井上博之

東京都豊島区東池袋四丁目二六番一〇号

被告

株式会社ファミリーマート

右代表者代表取締役

後藤茂

右訴訟代理人弁護士

長澤哲也

平野惠稔

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、金三〇万円を支払え。

第二  事案の概要等

一  事案の概要

本件は、後記二1記載の論文ないし言語の著作物(以下、併せて「原告論文」という。)について第一公表年月日を文化庁に登録している原告が、被告に対し、被告が店舗において使用している裏面に広告の入ったレシートは原告論文の著作権を侵害すると主張して、損害賠償を請求している事案である。

二  前提的事実(証拠の掲記がないものは争いがない。)

1  原告は、次の原告論文について、文化庁に第一公表年月日を登録している(甲第九ないし第一二号証)。

(一) 登録番号 第一五四九五号の一

著作物の種類 論文

著作物の題号 裏広告、広告付き製品名、製品名広告及び美観を損なう事のない広告

第一公表年月日 平成八年六月一六日

(二) 登録番号 第一五五一八号の一

著作物の種類 言語の著作物

著作物の題号 環境広告、レシイート広告、地球伝票、環境伝票

第一公表年月日 平成八年七月一〇日

(三) 登録番号 第一五五二五号の一

著作物の種類 言語の著作物

著作物の題号 環境広告、地球・製品名、環境・製品名、裏広告、広告付き製品名、製品名・広告

第一公表年月日 平成八年八月二日

(四) 登録番号 第一五五二六号の一

著作物の種類 言語の著作物

著作物の題号 環境広告、地球名刺、地球伝票、地球封筒、地球葉書(2)

第一公表年月日 平成八年八月二日

2  原告論文に記載されている内容の要旨は、地球環境の保護のために名刺、封筒、領収書等の裏面を有効利用するということにあり、表面に裏広告のマークやインターネット上のホームページ・アドレス、「裏をご覧下さい。」などの文言を入れ、また、表面ないし裏面には環境保護に関する文言を入れるなどして、資源は有限であることや、紙のリサイクルを促進することについて意識付けをしようとの提唱である(甲第九ないし第一二号証)。

3  被告は、被告の店舗において、表面に「裏をご覧下さい。」との記載があり、裏面に広告等の印刷がされた領収書を使用した。

三  原告の主張の要旨

1  被告が二3記載の領収書を使用した行為は、原告論文についての著作権を侵害する。

2  被告の行為により、原告の著作権の信頼性がなくなり、原告の信用が傷つけられた。また、原告は、SNT精巧社との間の商標と著作権の通常実施権設定の契約が破棄され、二〇〇万円の損害を被った。

四  被告の主張

1  原告は、本件訴訟において、原告論文における「有難うございます。~裏をご覧下さい。」、「ご利用有難うございます。裏面をご覧下さい。」との各表現(以下「原告表現部分」という。)につき、原告が著作権を有していること、及び、〈2〉被告の店舗で使用されたレシートに記載された「お買い上げありがとうございます。×××万人に一〇〇円お買い物券プレゼント実施中!裏面をご覧下さい。」との被告による表現(以下「被告表現部分」という。)が原告の右著作権を侵害していることをそれぞれ前提として、被告に対し、著作権侵害による損害賠償を請求するようである。

2  しかし、著作物は、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものでなければならないところ(著作権法二条一項一号)、原告表現部分は、ありふれた表現のものであり、創作性を欠き、著作物性が否定されることは明白である。

よって、原告表現部分は著作物ではなく、原告は、原告表現部分について著作権を有しない。

3  また、被告が原告の著作権を侵害したといえるためには、被告表現部分が原告表現部分に依拠して作成されたといえるものでなければならないが、被告が原告からの平成一〇年四月二〇日付書簡を受領するまでは、原告表現部分の存在、内容に接する合理的な機会すらなかったのであり、被告は、遅くとも平成一〇年四月二日までには被告表現部分を作成して使用しているのであるから、被告表現部分が原告表現部分に依拠して作成されたものでないことは明白である。

よって、被告が原告の著作権を侵害したとはいえない。

第三  当裁判所の判断

一  被告の店舗において、表面に「裏をご覧下さい。」と記載され、裏面に広告の入った領収書(甲第一ないし第四号証)が使用されたことは、当事者間に争いがない。

そこで右各領収書についてみると、甲第一ないし第四号証によれば、右各領収書には、表面に「お買い上げありがとうございます。400万人(あるいは500万人)に100円お買物プレゼント実施中!裏面をご覧下さい。」と記載され、裏面には被告の店舗で取り扱っていると思われる商品の写真、キャラクターの図柄及びプレゼントの応募券としての案内が記載されていることが認められる。

二  原告は、被告が使用したこれらの領収書が原告論文の著作権を侵害すると主張するので、この点について検討する。

まず、右各領収書の記載のうち、表面に記載されている文言について検討するに、「お買い上げありがとうございます。」、「400万人(あるいは500万人)にお買物券プレゼント実施中!」、「裏面をご覧下さい。」との各表現は、いずれもありふれたものであって創作性が認められる余地がないことは明らかであるから、これらの表現が何らかの著作権を侵害することはあり得ない。

次に、裏面に記載されている写真及び図柄について検討するに、商品の写真及びキャラクターの図柄については、甲第九号証ないし第一二号証(原告論文)を子細に検討してみても、これらの写真ないし図柄が示唆される記載は一切ないから、これらの写真ないし図柄が原告論文の著作権を侵害するものと認めることはできない。

さらに、裏面に記載されている応募券としての案内部分について検討するに、「『5、000円・3、000円お買物券プレゼント』応募券」、「このハッピーインフォくんの入ったレシートを、お買い上げ金額合計500円分集めてご応募ください。詳しくは店頭チラシをご覧下さい。●応募締切7月21日(火)消印有効●7月20日(月)までのレシートが有効」(以上甲第二、第三号証)、「『3、000円プリペイドカードプレゼント』応募券」、「このハッピーインフォくん又は応募券の入ったレシートを、お買い上げ金額500円分(税抜き)集めてご応募下さい。詳しくは店頭チラシをご覧ください。●応募締切1999年1月8日(金)消印有効●1999年1月7日(木)までのレシートが有効」(甲第四号証)と記載されていることが認められるが(なお、甲第一号証には、応募券の案内としての記載はない。)、右各表現についても、いずれもありふれた表現であって創作性が認められる余地がないことは明白であり、これらの記載が何らかの著作権を侵害するということはおよそ考えられない。

なお、原告論文に記載されている内容の要旨は前記第二の二の2のとおりであるところ、被告がその店舗で使用している領収書の記載内容や態様が、原告論文において原告が提唱する趣旨に合致するところがあるとしても、原告論文で提唱された思想自体が著作権によって保護されるわけではないから、右合致の事実を根拠として著作権侵害を云々することはできない。

三  そうすると、仮に原告が原告論文について著作権を有するとしても、被告の店舗で使用された右各領収書が原告の著作権を侵害するものと認めることはできない。

四  よって、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。

(平成一一年三月二五日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 水上周)

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